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薬の性差

「手ごころを加える。手加減する」という意味の「匙加減」という言葉があります。文字どおり料理の調味料の量を調整するという意味でも使われますが、もともとは医師(薬師。くすし)が薬を調合するときに、患者さんの体格や年齢、病状などに合わせて、薬匙を使って薬の種類と量を微調整していたことが語源です。

インフォームドコンセント(患者さんに対し説明をして同意を得ること)に基づいた治療があたりまえとなった現在でこそ、患者さんが処方された薬の内容を知ることはさして難しくありません。しかし、薬匙が使われていた当時は恐らく、医師がどのように薬を選んでいるのか患者さんにはほとんど見当がつかなかったことでしょう。

病気が治るにしても、治らないまま「匙を投げられてしまう」にしても、患者さんは医師の胸三寸を憶測するしかなかったわけです。そのためか、今日、匙加減という言葉にわずかながら「恣意的な」とか「ごまかす」といった語感が残っているようです。

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ただ、洋の東西を問わず比較的最近まで薬の処方は、薬の成分から推測される理論上の適合性、先人からの教えや習慣、医師個人の経験や勘などを頼りに決め、効果を見極めながら調整していくという方法が一般的でした。処方した薬が本当に最も適切な選択であったかどうかをしっかり科学的に確認して、より良い医療を作り上げようという流れが定着してきたのは20世紀の終りごろからです。

もちろんだからと言って、かつての医師が薬をいい加減に処方していたわけではありません。長い歴史の中でそれぞれの時代の医師が、そのときどきごとに科学的に最善の医療を追求し、その積み重ねがあったからこそ、少しずつ不治の病が治療できるようになり、寿命も延びてきたのです。

薬の効果を厳密に比較検討する大規模な科学的研究ができるようになるには、大勢の患者さんの情報を短時間で集める情報通信手段や、膨大な情報を短時間で統計処理するコンピューターが使えるといった環境が整うのを待つ必要があったのです。そして、こうした歴史の流れとともに、薬の作用に、人種差や性差があることが少しずつ明らかになってきました。

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ところで、一つの薬が世に出るまでには、いくつもの関門があります。

化学的な実験で「薬になるかもしれない」という成分ができると、それを動物に使ってみて、狙った効果があるかどうか、重大な副作用の危険はないかどうかが確かめられます。人間に使っても安全であろと判断されたら、まず健康な人に使い安全性を確認し、次にその薬の治療対象となる病気の患者さん少数に使い、本当に効果を発揮するか、危険な副作用が起きないかを調べます。

これをクリアしたら、治療に適切な薬の用量を決める試験を行い、最終的に、大勢の患者さんに協力してもらって、効果が本物か否か、どんな副作用が現れるのかを確認し、条件を満たせば薬として認められます。

このようなボランティアの人たちの協力を得て進められる新薬開発のための試験を、臨床試験または治験といいます。

女性しか発病しない病気の治療薬なら、臨床試験はもちろん女性に協力してもらう必要がありますが、男女ともにかかる病気の治療薬の臨床試験の場合、以前は対象者の多くが男性で占められていました。妊娠・出産の可能性がある女性には、胎児に影響を及ぼすかもしれない新薬を実験的に使うのには問題があるからです。

そのため多くの新薬は、男性を主体とした臨床試験の結果をもとに用量が決められてきました。

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しかし薬の作用は、体重や体表面積などによって左右されますし、それだけではなく、人種差、遺伝的な背景の差、年齢、肝臓や腎臓の働き、同時期に用いている薬など、多くの要素の影響を受けます。これらは臨床試験の積み重ねで明らかになることです。

海外の臨床試験で副作用がそれほど問題にならなくても、日本人では問題になることもあり、そのような場合は海外よりも用量を少なめに設定したうえで新薬として承認されることがあります。また、肝臓や腎臓の働きが低下してる場合は少なめの量を慎重に使うように注意事項がついたり、同時期に使ってはいけない薬が決められたりします。

ところがさきほど書いたような理由で、女性を対象とする臨床試験が少なかったために、男性と女性の間でも薬の作用に大きな違いがあることが長い間よくわかっていませんでした。

結果的に、女性では副作用の頻度が高く、その程度も重症になることがあったり、反対にあまり効果がみられないといったことがしばしば起きていたわけです。20世紀終盤になり、女性患者さんからの多くの声と、大規模な科学的研究の結果から、徐々にその実態がわかってきました。

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実際に、作用の性差が大きい薬をいくつか挙げます。

比較的多いのは、さまざまな感染症の治療に使われる抗生物質、あるいは花粉症などのアレルギー性の病気の治療または市販の睡眠導入薬にも使われている抗ヒスタミン薬で、女性ではこれらの薬で不整脈が起きやすいことがわかっています。また、抗凝固薬のワルファリン(納豆を食べては駄目と言われる薬)は、女性のほうが作用が強くなり、出血などの副作用が起きやすい傾向があります。

このほか、糖尿病の薬の中でインスリン抵抗性を改善する比較的新しい薬のチアゾリジン薬は、女性でむくみの副作用が現れやすいことがよく知られています。反対に、抗不安薬や睡眠薬として使われているベンゾジアゼピン系の薬は男性のほうが副作用が現れやすく、とくに高齢者でその性差が大きいとの報告がみられます。

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近年、性差に配慮した医療への関心が高まっていますから、薬の作用の性差は今後、より明らかになっていくことでしょう。そうすればいつの日か、「匙加減」という言葉から「恣意的な」「ごまかす」といったニュアンスは無くなっていくのかも知れません。


(2009/11/24)
(ku)

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