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特集
温泉と医師—癒しと休息と科学—

2016年の新春座談会は「温泉と医師 -癒しと休息と科学- 」というテーマで、日本温泉気候物理医学会・専門医の加藤光敏先生(東京保険医協会 糖尿病症例研究談話会代表世話人・葛飾支部幹事、日本糖尿病学会専門医)をお招きし、協会広報部員との新春座談会を企画しました。

温泉にまつわる話題が次々と飛び出した座談会。先生方も忙しい診療の合間に温泉でホッと一息つかれてはいかがでしょうか。

※編集部注:この特集は、『東京保険医新聞 2016年1月5・15日合併号』に掲載された「新春座談会」を、許可を得てWEB用に再編集したものです。

岩田 本日はお集まりいただきありがとうございます。温泉は、人間が自然に接して本当の自分を取り戻す、日本人の持つ本当の文化ではないでしょうか。温泉の持つ多面性を、科学の視点も交えながらざっくばらんに語り合いたいと思います。

 温泉好きの加藤先生が、医療のなかで温泉を、何か患者さんにとって、こんなふうに役に立つのではないかといった入口はあったのですか。


加藤 光敏 先生
(糖尿病学会専門医・
指導医、 日本温泉気候
物理医学会専門医)

加藤 私が慈恵医大を卒業した頃、大学病院の分院から温泉病院に医局員を派遣していた時代があり、温泉水を関節リウマチ、脳卒中後のリハビリに利用する等、種々の医療応用がされているのを知っていました。

 また父の実家が別府八湯の一つ亀川温泉に位置し、源泉がある祖父の家の風呂には温泉がこんこんと満ち溢れている環境でしたから、生まれつき私のDNAには温泉好きが組み込まれているのかもしれません(笑)。

日本温泉気候物理医学会とは


村松 康夫 先生
(内科)

松村 温泉とリハビリ病院のつながりは昔からありますよね。先生が所属されている日本温泉気候物理医学会ではどのような取り組みをされているのですか。

加藤 日本温泉気候物理医学会は日本で15番目にできた古い学会で、主として各分野の医師・研究者が活躍しています。

 まず日本の温泉科学の歴史ですが、温泉は古来民間療法でした。東京大学の眞鍋嘉一郎先生がドイツに留学して、飲泉とか、プールでの療法といったものを学んで帰っていらっしゃったのが元になっています。

 その後、エルヴィン・フォン・ベルツ先生は1876年に日本に招かれ、草津温泉を世界に紹介しました。1880年には「日本鉱泉論」を発刊され「日本には多くの温泉があり療養に利用されているが、これを指導する機関がない。政府は温泉治療を指導すべきである」と説いたわけです。

 日本の温泉文化を改めて捉えなおし、単なる飲泉だけではなくて、温泉治療と安全な温泉の使い方が定着してきたのはベルツ先生のおかげです。

 1935年に東京大学の林春雄先生を会長として「日本温泉気候学会」が発足し、物理医学会へと発展してきました。

松村 ベルツ先生の話は初めて伺いました。

 日本の湯治文化を科学的に分析し、今につながる温泉文化の礎を築かれたベルツ先生の精神は、日本温泉気候物理医学会にも引き継がれているのですね。

温泉を科学の目で見る

加藤 「温泉の科学とは何だろう?」という方も多いと思いますが、分かり易い例を出しましょう。

 家庭のお風呂で一般的な入浴剤に含まれる炭酸水素ナトリウム(重曹)を入れたときと入れないときと、深部体温がどうなるのかを比較します。入れた場合は体の表面の血管が「二酸化炭素が多い、酸欠状態」と反応して、毛細血管が開きます。すると熱エネルギーが体内に運搬され深部体温の上昇は速いことが測定されます。これは温泉の科学のほんの一例です。

 日本温泉気候物理医学会では、温泉を科学し、温泉療法として心不全、高血圧症、糖尿病、関節リウマチ、種々のリハビリテーション等に応用されています。


於曽野 正博 先生
(整形外科)

於曽能 温泉を科学の目で見る視点は、医師として欠かすことはできません。温泉の泉質や成分は体にどんな影響をもたらすのでしょう。

泉質と適応症
新しい泉質に出会う楽しみ

加藤 泉質は一般には、単純温泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、二酸化炭素泉、含鉄泉、硫黄泉、酸性泉、放射能泉に分類されます。まず、患者さんのことを考えた場合、慣れない方や体調が崩れているときには、特殊な成分の温泉ではなく、いわゆる単純温泉を薦めます。

 単純温泉は1kgの温泉水のなかに溶存物質1g未満かつ25℃以上のもので、含有成分が特に多くないものです。効果が少ないと一般の方は考えがちですが、それは大きな間違いで、単純温泉といっても色々バラエティに富んでいるわけで一般的効能が期待されます。きちんと体調によって選んでいただきたいと思います。

松村 浸るということだけでも大きな差があるということですね。

加藤 泉質別適応症というのが環境庁自然保護局長の通知として出ております。例えば塩類泉、塩化物泉では、浴用では切り傷、やけどとかに効く。それから炭酸水素塩泉、これも慢性皮膚病に効くとか推奨が色々と書いてあります。

 例えば塩化物が多いところは、本当に体が温まる。湯船から上がったとき、マグネシウムなどが皮膚の微量の脂肪や成分と反応して膜を造り、汗腺からの蒸散が抑えられて冷めにくいのです。

 泉質によって効果・効能が違うということは、人によっては体質・体調に合わない泉質もあるのですが、病気の効能にこだわらない場合、新しい泉質に巡り会うのは楽しいことです。

 温泉には「温泉分析書」が掲示されているので、泉質・成分・効能、つまり何泉か、pHは、何に効くか、溶存物質が何グラムかは、少なくとも見てほしいと思います。

 私は源泉を口に含んでみることにしています。強酸性の玉川温泉で薄めずについ口に含み、歯が溶けそうになったことがありますが(笑)。

於曽能 泉質だけに囚われるのではなく、その環境に行って空気を感じて、光を感じて、光に当たったお湯のゆらめきを感じる。やはりそれが温泉を楽しむ醍醐味でしょう。

温泉の安全性―最低限の知識を


岩田 俊 先生
(精神科)

岩田 温泉によって泉質が大きく違うということが分かりました。安全性という点では、どうなのでしょうか。

加藤 岩田先生から大事なポイント、温泉で危険を避けるという話が出ました。例えば、硫化水素の問題です。温泉に気軽に入って「おお、硫黄の匂いだ」と言いますが、硫化水素が気化した臭いなのです。硫化水素では時に死亡事故が起きます。

 硫化水素は大気よりも重いので、風呂の浴槽は必ず満たし、湯面から10cm上で硫化水素濃度が20ppmを超えてはいけない。脱衣場など床から70cm上は10ppmを超えない。あとは換気を十分に行い、朝ともう一回濃度を測定。また降雪で溜まり易くならないか等、安全のためにとても細かい規則があるわけです。

岩田 硫化水素では怖い体験をしたことがあります。息子と一緒に白馬岳に登り、白馬の鑓温泉に小学校3年生の息子と入って、そこの山小屋に泊まりました。夜中、硫黄臭がひどく、息子が起きて騒ぎました。通常は下山のときに露天風呂に入って帰るだけのコースで、そこで泊まるということは想定されていなかったのではと思い、後でぞっとしました。

加藤 だから必ず朝1回、硫化水素を測定するという規則があります。普段は入浴客が出入りのたびに空気を入れ替えていますから、朝、誰も入っていないときに1度は測ること、という規則があるのですね。

松村 今、山のなかにある秘湯といわれているところでも温泉として測定はしているのでしょうか。

加藤 日本の温泉地の数は3千カ所以上、源泉の数だけでも2万7千カ所以上にのぼるとされます。すべての温泉で万全の管理は到底不可能です。

 日本は今、火山活動も活発で、湯量や温泉成分が変化したりします。硫化水素の話はしましたが、過去には八甲田で無風のくぼ地で溜まった で死亡事故もありました。温泉地は厳しい自然環境と一体なのです。

於曽能 なるほど。安心して温泉に入るために、最低限の知識を学べる機会を設ける必要がありますね。

加藤 もうひとつ安全性という点では、毎年、日本人1万5千人程が風呂のなかで亡くなるという現実があります。高齢者が中心ですが、飲酒がらみの若い方の痛ましい事故もあります。

 高齢では家庭の風呂のお湯の量は少なめにとか、つかまれるように風呂蓋を半分残す、手すりの整備、低血糖になる方は注意等で、おぼれないようにするというのが非常に大事です。

 なお42度以上の高温泉は危険が伴います。体の遠位部から順にかけ湯をせずに熱い温泉に我慢しながら入ると、血圧・心拍数が急上昇し非常に危険だと思います。温泉に入った直後は血糖が上がるという方は、かけ湯不十分の高温泉好きの糖尿病患者さんだったのです! 

 高温泉をさけて長めに入浴し、深部体温を上げて、副交感神経を活性化させるのが理想です。現代はストレス社会ですから、ぬるめの湯に長めに入るというのが大切ですね。

 恐山菩提寺でのことです。荒涼とした霊気漂う境内のなかに、無料の温泉小屋があるのをご存じですか。冷えた体には高温過ぎたので、足し水をしたら、すぐ後から入った常連おじさんに「今日はぬるいな!」と言われたことがあります(笑)

飲酒と温泉―命の危険も

岩田 温泉にはどうしても飲酒がついて回りますが、お酒を飲んで温泉に入るのは明らかに危険ですよね。

松村 僕は死にかけたことがあります。若い頃、お酒をたくさん飲みまして、寝る前に温泉に入ったら意識が朦朧としてガブッと体が沈みました。気づいたときはお湯を飲んでいて、夢中ではい出し部屋に帰った記憶があります。

於曽能 それは危なかったですね。お風呂に入るとお酒は相当回ります。

加藤 酒と温泉で血管が拡張し、血圧も下がっていたのでしょう。飲んだら入らないというのが大原則ですね。食事前に入り、それからおいしくビールをいただくのが良い!温泉は命を長くするもので、そこで死んでしまったら元も子もないですから。健康のために上手に温泉を利用したいものです。

資源としての温泉

岩田 温泉をたくさんの人に楽しんでいただく上で、最近は地熱発電の余り湯を温泉に利用することが行われていますが、どう見ていらっしゃいますか。

加藤 大規模にやると、すぐに温泉資源が枯渇してしまいます。小さく発電し、それを安く利用する地熱発電であればいいと思うのですが、いかがでしょうか。

於曽能 今主流の地熱発電は、普通の温泉旅館で使うのとは桁違いの量の温泉を使ってしまった。日本では地熱の高いところは多くありません。今は低い温度差でも十分発電できるようになっていますし、使ったものをまた元に戻すとか、いろいろ工夫しながら使うことを考えていくべきだと思います。

岩田 実際には、温泉で使っている熱水を勝手に使ってしまう地熱発電が平気で行われているような気がします。温泉は絶対保護しながら、うまく地熱を使うということを、新たなテクノロジーの開発を含めてやらなければならない時期にきているのではないでしょうか。

加藤 温泉というのは資源だから、掘りすぎたらしっぺ返しがくると思います。「湯水(ゆみず)のように」という言葉がありますが有限です。循環風呂のような形式はある程度は許容していかなければいけないと思います。源泉掛け流しと言っても、入る湯量が少ない所ではいかがなものかと思ってしまいます。

岩田 循環風呂であったとしても、温泉というものがあれば、そこに浸かることで一定の安らぎを得られるという側面があるわけですからね。それとは別に、文化としての湧出する温泉は大切に守っていくという、別枠にする努力があってもいいのではないでしょうか。

松村 あとは景観を壊さないようにすることが大切です。施設や開発は小さく、小さくして温泉という日本の文化を守っていきたい。

岩田 各部屋露天風呂付きでコース料理が出る高級温泉旅館もいいのですが、源泉掛け流しのような温泉は個人所有でなくて、もっと社会で援助して、文化遺産として守るやり方を取る時代ではないかとも感じています。

加藤 別府では結構それができていますね。地域で共同して、料理などを持ち寄って蒸したり、ひとつのお風呂を楽しむ文化が定着しています。隣の家からお湯をもらってくるとかが、まだ当たり前に行われています。

於曽能 いいですね。お金を出さなきゃ温泉を楽しめないのでは寂しい限りです。

裸でいただく温泉文化

加藤 「なぜ人々は温泉に癒しを求めるのか」ということを考えたときに、私が前から好きなのが、式亭三馬の『浮世風呂』です。

 「湯を浴んとて裸形になるは、天地自然の道理、釈迦も孔子も於三も権助も、産うまれたまゝの容にて、惜い欲いも西の海、さらりと無欲の形なり」。風呂に入るために裸になれば、高名な方も、金持ちも貧乏人もすべて一緒。「人間みな平等」ということだと思うのです。

 だから、温泉で裸になったら医者もない。背中にしょった社会的重荷は何も無し!知らない人とも「いや、ここ初めてなんですよ、私は千葉県からです」なんていって話し始めるでしょう。楽しく、よかったなという雰囲気が残る。やっぱり裸だというのが、温泉のいいところではないでしょうか。

於曽能 外国だと水着ですから、なんというか少し風情がないですね。

岩田 共同浴場のように、地元の人々が管理している温泉に入ると、午前中から入っているおやじみたいのがいて、「お兄さんどこからだい?」っていう会話が幸せな時間です。

松村 共同浴場なんかに行くと、病気が重い人の方が偉くなるのが興味深いです。「何の病気なの?」「私、ここも、ここも悪いのよ」みたいな感じです。そういう偉い人たちが湯口のほうを独占していて、健康な人間は少し肩身の狭い思いをしてしまう。お腹を切った傷口の大きい人が一番威張っていた(笑)。

岩田 なるほど、やっぱり裸であることが一番なのですね。自然の恵み、温泉を裸でいただいているということでしょうか。

加藤 日本は火山国、地震国で、災害が頻繁に起きる厳しい国です。だからこそ、自然の恵みを享受することができるわけです。

 厳しい自然と対峙する見返りに、神様が日本人に与えてくれたのが温泉であり、温泉文化だと思うのです。「いただいている」という感謝の気持ち、それが大事ですね。

 本当に温泉というのは不思議なもので、車を運転していて「何だ!割り込み!」とカリカリする方も、温泉地に行くと「お先にどうぞ」なんていって人に優しくなってしまう。そういう不思議な力が温泉にはあります。

 温泉文化のマナーは、今増えている外国からきた観光客にも旅行会社、案内文などを通して啓発し、温泉文化の一部として守ってほしいものです。

岩田 世相も厳しさを増し、世知辛い世の中ではありますが、先生方もぜひ温泉に浸かって一息ついて、明日への英気を養っていただきたいと思います。加藤先生、温泉にまつわる楽しい話題を提供いただき、ありがとうございました。

関連情報

プロフィール

加藤 光敏先生

加藤 光敏(かとう みつとし)
糖尿病学会専門医・指導医、
日本温泉気候物理医学会専門医

1981年
東京慈恵会医科大学卒業
1985年
慈恵医大・大学院博士課程卒業、医学博士号授与、
カナダ・オタワ大学医学部留学
1987年
2年留学の後、カナダより帰国、海外招待講演、
国際学会招待座長
1993年
東京慈恵会医科大学・内科講師
1996年
加藤内科クリニック開院・院長
2012年
東京都糖尿病協会副会長

主な所属

日本糖尿病学会専門医・指導医・評議員、日本温泉気候物理医学会・専門医、日本循環器学会認定専門医、日本循環器学会地方会・評議員、日本適応医学会・評議員、葛飾糖尿病医会会長、ヨーロッパ糖尿病学会員、日本内科学会認定医、日本医師会認定スポーツ医、日本病態栄養学会・評議員、等。
なお、糖尿病ネットワーク「糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント」は、月間延べ6万ページ購読されている。詳細はこちら ▶
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