ある日会社で見せられた禁煙ビデオで、私は少なからずショックを受けた。そこにはタバコを吸っている者と、そうでない者の肺の中が大写しにされていた。当時、私は一日に一箱吸う喫煙者であった。
タバコを吸っていない者の肺はきれいな色をしていたが、吸っている者の肺は黒いタールがびっしりへばりついていた。それを見て私は「自分の肺もあんなになっているのか」と思うと、ぞっとした。数年前から妻にはタバコをやめるよう、しつこく言われているのにもかかわらず無視して吸い続けていた。
肺がんで苦しんでいる人の映像まで見せられて、私はついにタバコをやめようと決心をした。しかし、一気にやめることはできなかった。そこで徐々に一日の本数を減らしていくことにした。最初は5本減らし、一日15本にした。これはなんとかいけた。半月後には10本にした。このあたりからかなり苦しくなってきた。ガムで口をまぎらわしながら耐えた。1ヵ月後には5本にした。ここからは本当に苦しいニコチンとの闘いであった。一日5本が8本になることもあった。つらい一進一退が続いた。そのとき、私はこの剣が峰を乗り越えるには、あのビデオの力をもう一度借りねばと思った。
会社からビデオを借りてきて再び見た。ニコチンに負けそうになっていた私に、それは喝を入れてくれた。ついに私は2ヵ月後に禁煙に成功した。これをきっかけに、近くに住んでいる娘夫婦にも禁煙をさせようと思った。口で言ったところでやめはしないのは分かっていた。そこである作戦を思いついた。
ある日、寿司でもとって一緒に食べようと家に娘夫婦を呼んだ。集合時間は夜の8時。おいしい餌につられ、喜んでやってきた。寿司を食べ終わった後、私はダビングした例のビデオをやおら取り出すと「いまから禁煙のビデオ鑑賞をする」と高らかに宣言した。娘夫婦はあっけに取られていた。ビデオを見終わると、ふたりとも少しショックを受けた表情をしていた。
「父さんの言わんとすることはもう分かったな。明日から父さんがしてきたように、徐々に本数を減らし禁煙をするんだ、いいな」
いつのまにか命令調になっていた。そして、私の悪戦苦闘の経緯をメモ書きにした紙を手渡した。妻は横でにこにこ笑っていた。
次の日から娘夫婦の禁煙への闘いがはじまった。そろそろニコチンの誘惑に負けそうな頃合いを見計らい、焼肉やすき焼きといった餌で8時に集合をかけ、その都度ビデオを見せた。ふいに娘夫婦宅にいき、本当に取り組んでいるかもチェックした。
その結果、娘夫婦もタバコと縁を切ることができた。私の「8時だよ、全員集合!」作戦は功を奏し、いまでは家計も助かって健康にもいいし、一石二鳥だと家族みんなから喜ばれている。






8時だよ、全員集合!

都道府県別の健康リスク更新(5/ 18)







