「朝、早く起きて一緒に歩かないか?」
夫がそう言ったのは、5年前の秋の終わりのことだった。ズボンのサイズがきつくなってきてお腹周りを気にしている、なにか運動を始めた方が良いかもしれない、という話の流れから出た言葉だった。
当時、私は、長女を妊娠中で安定期にはいっていた。体重管理と体力作りのために、やはり体を動かした方が良いと主治医に言われていたが、妊娠中にできる運動は限られている。夫の提案は、渡りに船というものだった。
こうして私たちは、次の日から歩き始めた。
いつもより1時間ほど早く起きて、まだ薄暗い街の中を歩く。人気がない住宅街は、ちょっとした異次元空間のように見えた。住宅街を抜けて川沿いの道に出ると、東の空がほんのり明るくなり始め、モノクロだった世界は、太陽の光の登場で突然目覚める。秋の名残の花々や、赤や黄色に色づいた木々の葉っぱが、ふいに光り輝きはじめるのだ。
私たちは、いろいろな話をしながら歩いた。清冽な風とまぶしい太陽の光のなかでは、未来について話すことが最もふさわしいように思う。生まれてくる子どものこと、理想とする家庭像、話は尽きることがなかった。
早朝の散歩の効果かどうか、長女の出産は安産だった。夫も、ズボンを買い替えずに冬を乗り切った。けれど、あの時間がくれた最大のプレゼントは、私たちがお互いへの理解を深めたことだった。とりとめのない会話ではあったが、これから新しい家族を迎え、一から家庭を築いていくうえで、なくてはならない重要な土台を二人で作り上げていくことができたように思うのだ。
あれから5年、冬の散歩の習慣は形を変え今も続いている。夫は、子どもたちを寝かしつけたあと、一人でそっと夜の散歩に出かける。私は、長女の自転車練習につきあって、北風の中をときには走り、またときには、よちよち歩きの次女の手を引いて日だまりに咲くタンポポに足を止める。
いつの日か、子どもたちは、冬の散歩道で友情の素晴らしさや恋愛の悩みを打ち明けてくれるだろう。そして、子どもが巣立っていったあとには、また、夫と二人で歩く日々がやってくるだろう。ささやかな希望と願いを胸に、私は今日も歩いている。






冬の運動

都道府県別の健康リスク更新(5/ 18)







